なぜか印象に残る場所|トイレという小さな空間の施工例
トイレは、店や家の中でいちばん小さな空間です。
それでも、店や家を出たあとに「なんだか落ち着いた場所だったな」と感じたとき、その理由を思い返すと、トイレの記憶に行き着くことがあります。
それはトイレは、家の中で唯一、完全に一人になる場所だからかもしれません。
滞在時間は短く、何かをするための空間でもない。けれど、外の音や視線から切り離され、意識が静かに切り替わる。その感覚を支えているのは、広さや設備の豪華さというよりも、光の当たり方や素材の質感、そして視線が自然に落ち着く余白。
トイレという小さな空間には、設計の意図が意外と多く見える場所なんです。
居心地の良いトイレに共通する、2つの要素
トイレが印象に残るかどうかは、特別なデザインや高価な設備で決まるものではありません。
むしろ、目立たない部分にどれだけ意識を向けているかで、空間の質は大きく変わります。
1つ目は、照明が主張しすぎないこと。
必要な明るさは確保されているのに、照明の存在を意識させない。グレアレス照明や間接照明によって光をやわらかく回すことで、視線が落ち着き、気持ちも自然と静まっていきます。
2つ目は、視線に余白があること。
正面に情報が並びすぎていないこと。線や物が整理されていること。
それだけで、トイレに入ったときの印象は驚くほど変わります。
狭い空間では、一つひとつのアイテムが占める存在感が大きくなります。だからこそ、数を増やすのではなく、手触りや形、素材感にこだわったものを丁寧に選ぶ。
居心地の良さは、何かを足すことで生まれるのではなく、削った余白の中で、選び抜いた要素が静かに際立つことで整っていきます。
施工例①|グレアレス照明と板張りがつくる、静かなトイレ
I様邸のトイレでは、存在を感じさせないグレアレス照明と板張りの仕上げを採用しています。光源が視界に入らないことで、空間に入った瞬間の緊張感が消え、自然と呼吸が整うような感覚が生まれます。メラミン木目貼りも、デザインとして主張するのではなく、空間の背景として静かに存在し、安心感を与えてくれます。
タオル掛けは、アルネ・ヤコブセンとVOLA社のパートナーシップによって誕生した「Vola」シリーズ。これまで空間の雰囲気を妨げることのない、シンプルなヤコブセンのデザインを守り、製品のクオリティを磨き続けてきました。その結果、流行の多様化により製品のライフサイクルが短くなった現代においても、変わらない”design icon”として愛用され、世界でもっとも人気のある水栓のひとつとなっています。※HP説明文引用
洗面の天板などが大理石なので、主張しすぎない、シンプルだけどタイムレスで、洗練されたものを探し、辿り着きました。
ペーパーホルダー・洗面のタオル掛けも、単なる付属品としてではなく、空間との比重をみて、バランスの良いものを選定。小さな空間だからこそ、こうした細部の積み重ねが、空間全体の印象を静かに引き上げてくれます。

グレアレスDLのやわらかな光が、木の質感と陰影を引き立てる。

・メラミン木目パネル:JC-517KS98(AICA)
・床フロアタイル:IS-2062(サンゲツ)
・グレアレスDL:DDL-5426YW(DAIKO)
・ペーパーホルダー:BA19039(miratap)
・タオル掛け:VLT15R(CERA)
施工例②|間接照明とアクセントクロスで包む、やわらかな空間
Y様邸では、収納の下に間接照明とアクセントクロスを組み合わせ、ダークな空間に、やわらかな奥行きをつくりました。照明はクロスを強調するためのものではなく、素材の凹凸をなぞるように光を落とす役割。
暗く見えますが、入った瞬間に外の空気から切り替わり、気持ちが自然と内側に向かう落ち着いた空間になっています。

ご提案パース
・アクセントクロス:RE55115(サンゲツ)
・収納 大理石シート:ダイノックフィルム ST-2536MTマーブル(3M)
・床フロアタイル:IS-2027(サンゲツ)
数分のために、整える理由

トイレは、空間の中でもっとも小さく、もっとも差が表れやすい空間だと思います。限られた面積の中では、光の選び方や素材の使い方、何を置き、何を置かないか。そのすべてが、ダイレクトに空間の印象として現れます。
数分しか滞在しない場所だからこそ、無意識に気持ちが切り替わる質を大切にしたい。
入った瞬間に落ち着く、出るときに少し整う。その感覚は、偶然では生まれません。
なぜか印象に残るトイレは、静かな意図の積み重ねによってつくられています。
小さな空間に向き合い続けた先にこそ、その家らしい居心地が現れてくるのではないでしょうか。