「こもれる場所が欲しい」から始まった、暮らしに合わせる造作ソファ
こんにちは。
VOULOIR DESIGN(ブルワールデザイン)の渡邊 あおいです。
以前デザインさせていただいた家具について、blogに残したいと思います。
「こもれる場所も欲しい」
今回の住まいづくりで、お客様からいただいた言葉のひとつです。
家族と同じ空間にいながら、一人で本を読んだり、少し仕事をしたり、ぼんやり過ごしたり。
完全に部屋を分けるのではなく、ひとつのLDKの中に、過ごし方を選べるいくつかの居場所をつくれないか。そんなところから、今回の造作ソファのデザインは始まりました。
1. 「どんな生活をしたいか」からデザインを考える
インテリアを考えるとき、私たちが最初に考えるのは、「何を置くか」ではありません。
そこで、どんな時間を過ごしたいのか。今回も、お客様との会話からデザインを組み立てていきました。
食事をする。
家族でくつろぐ。
一人でこもる。
キッチンから家族の様子を見る。
同じLDKでも、時間帯やその日の気分によって、人が求める居場所は変わります。
だからこそ、「リビングにはソファ、ダイニングにはテーブル」と家具を当てはめるのではなく、そこで起こる生活のシーンから空間を考えていきました。

2. 同じLDKの中に、異なる居場所をつくる
今回デザインしたのは、アールを持たせたダイニングソファと、リビング側に配置した同じデザインのソファです。同じ意匠の家具を使いながらも、座る位置によって視線の方向や周囲との距離が変わります。それによって、ひとつの空間の中に少しずつ性格の違う居場所が生まれました。
家族と過ごしたいとき。
少し離れて一人で過ごしたいとき。
食事をしながら会話をするとき。
同じ空間にいながら、それぞれが心地よい距離感を選べる。「こもれる場所」という言葉を、閉じた個室ではなく、居場所の選択肢を増やすこととしてデザインしています。


3. 賃貸だからこそ考えた、壁に穴を開けない造作家具
今回の住まいは賃貸物件です。そのため、造作家具でありながら、既存の壁には一切穴を開けないことを前提に設計しました。家具はユニット式とし、それぞれに十分な重量を持たせることで、使用時にずれにくい構造にしています。
また、暮らしてから使いづらさが出ないよう、ソファ側には電源を2か所組み込みました。
もちろん、賃貸なので新たに壁内配線をするわけにはいきません。
そこで既存のコンセントからそれぞれ電源を取り、造作家具側で使用できるようにしています。制約があるから、できない。ではなく、その条件の中で、どうすれば暮らしやすさを実現できるか。賃貸住宅のインテリアでは、この考え方がとても大切だと思っています。


4. 動線と寸法。譲れないものをどう両立させるか
今回、特に時間をかけたのが寸法の調整でした。キッチンからリビング・ダイニングへの動線。人が椅子に座ったときのスペース。立ち上がるための寸法。家具と家具の距離。
そして、それぞれの場所でどう過ごすのか。
図面上では数センチの違いでも、実際に暮らし始めると、その数センチが毎日の使いやすさを左右することがあります。
デザインを進めていると、「この寸法だけは絶対に譲れない」という場所が出てきます。
すべてを広くすることができない場合、では、どこでバランスを取るのか。
こちらを優先したら、こちらにはどんな工夫ができるのか。何度も考えて、描いて、違うと思ったらまた戻る。今回も、お客様とたくさんのやり取りを重ねながら、一つひとつ調整していきました。

配膳する動線を確保しながら、要望を落とし込んでいく
5. 座り心地から小口の色まで。細部を決めていく
造作ソファは、形が完成すれば終わりではありません。
座面の硬さや背もたれの角度によって、座ったときの印象は大きく変わります。
今回はお客様に工場まで足を運んでいただくことが難しかったため、座面のサンプルを実際にお持ちし、触って、座っていただきながら硬さを決定しました。

さらに検討したのが、背もたれの角度、張地、メラミン、木口のカラー、家具用コンセントの色など。一見すると小さな違いですが、こうした細部が積み重なって、家具全体の佇まいをつくります。
今回、木目部分にはメラミン化粧板を使用しています。特に気をつけたのが木口の見え方でした。面材と木口の色が合っていないと、正面から見たときにはきれいでも、斜めから見た瞬間に違和感が生まれてしまうことがあります。
だからこそ、「目立たせない部分」まで色を合わせていく。
完成した家具を見たときに、何かひとつが主張するのではなく、自然に空間の中に存在している。そんな状態を目指しました。

6. デザインは、日常のストレスを解決するもの
毎回のプロジェクトで感じることがあります。すべての始まりは、「どんな生活のシーンを過ごしたいか」だということです。その生活を叶えるために、どうデザインするのか。
そして、毎日の何気ない動作にストレスが生まれないよう、デザインによって何を解決できるのか。
見た目が美しいことは、もちろん大切です。
でも私たちがつくりたいのは、写真を撮った瞬間だけ美しい空間ではありません。
朝起きて、キッチンへ向かう。
食事をする。
家族と話す。
一人で過ごす。
コンセントにスマートフォンをつなぐ。
そんな小さな行動を繰り返した先に、「なんとなく、この家は居心地がいい」と感じてもらえること。そのために、見えないところまで考えることが、インテリアデザインの役割だと思っています。
7. お引き渡しを終えて
デザインの過程は、決して華やかなことばかりではありません。考えて、手を動かして。違うと思って、また考える。その繰り返しです。
今回もたくさん悩み、何度も検討を重ねました。だからこそ、お引き渡しの際にお客様から、
「期待をはるかに超える素晴らしい成果」
「想像以上のリニューアルに感動しました」
という言葉をいただいたときは、それまでの時間がすべて報われたような気持ちになりました。完成した空間を見ること以上に、そこで暮らす方が喜んでくださること。それが、この仕事を続けていて一番嬉しい瞬間なのかもしれません。
長い時間をかけて一緒に住まいについて考えてくださったお客様に、改めて感謝申し上げます。これからこの場所で、ご家族それぞれの心地よい時間が積み重なっていくことを願っています。
VOULOIR DESIGNについて
VOULOIR DESIGN株式会社では、住宅や宿泊施設を中心に、空間のコンセプト設計からインテリアデザイン、家具・照明の選定、造作家具のデザイン、アートディレクションまで一貫して手掛けています。
既存のスタイルや家具から空間を組み立てるのではなく、そこで暮らす人が「どんな時間を過ごしたいのか」を起点に、空間全体をデザインしています。